自由港

自由港(じゆうこう、: free port; free trade zone; free zone)は、港湾の全域あるいは一部を関税制度上は外国とみなし、輸入貨物に関税を課さず、外国貨物および船舶国外との自由な出入りを認める制度保税制度を拡張したものであり、国全体としては関税による保護政策を維持しつつ中継貿易加工貿易の促進を図る目的で行なわれる。関税を免除された外国貨物は区域内での積み込み、陸揚げ、保管、消費、(現地製品も含めた)混合、改装、再包装、仕分け(仕訳、荷分け)、組立、加工、製造などが認められ、これにより海運、倉庫、保険といった商港産業の発展が促される

種別

自由港は以下の三種に大別される

  • 自由港市 (free port city) - いわゆる本来の自由港にあたる。港湾都市全体が関税区域外とみなされ、個人の居住が許される。しかし市内・市外間の利害対立が激化しやすく脱税密貿易の取り締まりも難しいため現存せず香港シンガポールがそれに近い形で残るのみである
  • 自由港区 (free port quarter) - 自由港市より範囲を狭め、開放地域の全部あるいは一部のみを関税区域外とし、そこでの貨物の輸出入、保管、加工などが認められる。区域内の居住は認められない。現在の代表例としてハンブルクコペンハーゲンロッテルダムグダニスクが挙げられる。
  • 自由地区 (free district) - 自由港区よりさらに制限を加え、港湾内の自由地域 (free port zone) で貨物の搬入と再輸出、および倉庫保管のみが認められる。加工は認められない。もっぱら港湾設備の利用率向上と中継貿易の発展に目的をおいたものである。現在の代表例としてニューヨークニューオーリンズサンフランシスコが挙げられる。

歴史

自由港は古代カルタゴローマ帝国でも見られたが、近世のものは中世イタリア自由都市に由来があり、16-17世紀イタリアリボルノベネチアナポリジェノバといった主要港を原型とする。これらの自由港市は外国人の居住も認めていた。のち中欧・北欧が発展するにつれ、ハンブルクブレーメン、ダンチヒ(グダニスク)などにも自由港市は広がったが、自由港市は19世紀には多くが廃止され、現在では自由港区または自由地区として運用されるか、より弾力性のある保税制度を利用する場合が多い。日本に自由港は無い

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k 石田貞夫(編)、中村那詮 編『貿易用語辞典』(改訂第2版)白桃書房、2013年、172-173頁。ISBN 978-4561741947 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae 秋山憲治『日本大百科全書』 第11巻、小学館、1986年、485頁。 
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 平山健二郎 著、加藤周一 編『世界大百科事典』 第13巻(改訂新版)、平凡社、2007年、62頁。 
  4. ^ a b c d e f g h i 竹之内秀行 著、宮澤永光(監) 編『基本流通用語辞典』白桃書房、1999年、120頁。ISBN 978-4561751311 
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n 村本孜 著、吉野昌甫 編『貿易・為替小辞典』有斐閣、1983年、141頁。ISBN 978-4641056411 
  6. ^ a b c d 小学館国語辞典編集部 編『日本国語大辞典』 第6巻(第2版)、小学館、2001年、1229頁。